さよならの物語

2006年1月9日 連載
第25話

二人から逃げるようにして、連絡を取らなくなって2週間。
結局、私は気持ちを振り切ることも、割り切ることも、何か考えることもできず
暗闇の中を過ごす毎日だった。
そんなある日、私の元へ2通の手紙が届いた。
そして、その手紙を幾度も読み返した数日後、私は、空港の出発ロビーにいた。
たくさんの人が行きかうのをただ意味も無く見つめながら、立ち尽くしていた。
ビジネスマン、家族連れ、老夫婦、OLらしき人。
みんなそれぞれの目的があって、それぞれの場所へ向って飛び立とうとしている。
私は、今の私には、何があるんだろう。
私はどこへ向えばいいのだろう。
手にした2枚のチケットをじっと見つめる。
1通は勇樹からのもの。
そして、もう1通はタクヤからのもの。

もう、私はこのまま逃げ続けるわけにはいかない。
「どちらも選べない」、それもすらも単なる逃げでしかないことが分かった。
今、私はここで決めなければいけないんだ。
どちらかを選べば、確実にどちらかとの永遠の別れが来る。
今、その決断を・・・。
私は、目の前にあいたイスに腰掛けて、鞄から2通の手紙をだした。

イブへ

イブと過ごしてきた時間が、今、とても愛しいものに思える。
今まで、当たり前のように二人での思い出を積み重ねていけると思っていた僕は、
イブから「もう一人大切な人がいる」と聞かされて、一瞬頭を殴られたような感覚になった。
俺は、イブに甘えていたんだね。
いつまでも、こんな俺を許して、ずっと俺を待っている君しか想像していなかったから。
でも、そうだよね。
君だって、きっと確かな何かが欲しかったはず。
だから、俺と付き合いを重ねる一方で、他の人とも時を重ねてきたことを責めたり、
「なぜ」と問いただしたりするつもりはない。
当然のことだ、と今冷静になると分かるから・・・。

俺の、本当の気持ちを今、君に伝えようと思う。
月に一度の君との約束だけを心の支えにしてきた。
既に巣立ってしまった子供と、すっかり別々の人生を歩き出してしまった妻との形だけの家族。
それでも、それが家族である限り、そこへ帰らなければいけないと頑張ってきた。
それは、本当に辛いことだった。
特に、君と会った後は、なぜ俺の帰る場所があの無機質な家なのかと悔しくて、車の中で何度も唇をかんだ。
俺を責めることも無く、いつも寂しそうな、でも、笑顔で去ってゆく君の後姿を見るにつけ、涙がにじんだ。
俺が、この家族から決別しようと思ったのは、君だけのせいではない。
それだけは、分かってくれ。
ただ、君がくれた暖かさが、僕の背中を押してくれたことは間違いない。
子供は何もいわなかった。
妻は、あっさりした顔で、「お互い幸せになりましょう」と一言だけ言った。
だから、大丈夫。
君は、何も壊していないんだ。
君が心配していた、人の家族を壊すことだけはしたくない、というその言葉は未だに守られているんだよ。
だから、安心して俺のところへ飛び込んできてくれないか?
君は、冗談だと思っていたんだろうけど、君と付き合い始めたとき、宮古島に土地を買ったんだ。
君との未来を夢見て購入したんだ。
君は、そのときは冗談だと思って、笑ってかわしてくれちゃったけどね。
その土地を見に、一緒に宮古島へ旅行に行かないか?
そして、これからの俺達のことを話そう。
君が一度だけつぶやいた、「アナタとは未来の夢をみられないから」という言葉を
海に返上しに行こう。
これからは、何も気にせず、誰に遠慮することも無く、未来を夢見ていいんだ。
いや、二人で未来を描きたいんだ。

最後になって、こんなことをいって君をつなぎとめようとする俺は何てずるいんだろう。
でも、君のすぐ近くに住む彼に、君を連れ去られるのは耐えられない。
ぐずぐずしていた俺が全部悪いけど。
仕事や、遠距離を理由に、君に寂しい思いをさせ続けてきた俺が悪いけど。
でも、君のその笑顔を俺に守らせて欲しい。
これからは、ずっとそばにいるから。

飛行機のチケットを同封します。
君が来てくれると信じて。
しつこいようだけど、これからはずっと一緒に生きていこう。

勇樹

さよならの物語

2006年1月3日 連載
第24話

昨日とは違う私の生活。
携帯電話が変わり、一日に何度も送られてきた携帯メールの着信音が途絶えた。
勇樹からの電話も、タクヤからの電話もならない。
ただただ、目の前の仕事をこなしていくだけで時間が過ぎていく。

事務所の机の上のパソコンの画面を焦点の合わない目で見つめながら、
スクリーンセイバーの映し出す南の島の写真に、過去の思い出を重ね合わせていた。
タクヤと過ごした沖縄での時間。
勇樹とは行く事ができなかった沖縄の離島への想い。
タクヤがまだ単なる先輩だった頃、二人で食事に行ったこと。
勇樹と過ごす月に一度のホテルでのゆったりした時間。
タクヤの笑顔。
待ち合わせた私のところへ向ってくるスーツ姿の勇樹。
いつも暖かいタクヤの手のぬくもり。
勇樹のさりげないエスコートにドキドキしたこと。
タクヤのアルファロメオを一緒に買いに行った。
東京駅の改札で手を振る勇樹の姿。

私には抱えきれないほどの思い出の数々。
タクヤと勇樹が与えてくれたものは計り知れないのに、
私はそれに答えられないばかりか、その思いを裏切ってしまった。
人を好きになるってとてもシンプルな気持ちのはずなのに、
どうしてこんなに難しいの?
幼いころ、初恋の人を教室の窓から見つめているだけで満足だった
そんな頃に戻れたら、きっと誰も裏切らずに済んだのに。

「ダメだ・・・、今日はもう仕事が進まない」
机の上のファイルをパタンと閉じて、私は事務所を出た。
このままでは何の解決にもならないかな。
でも、今はこれが精一杯。
本当にバカな私・・・。
不意に、携帯電話が鳴り出した。
「はい?」
怪訝そうに電話に出た私に、事務所の女の子からの言葉。
「タクヤさんが見えています。どうなさいますか?」
・・・。
少なくとも勇樹は私の事務所まで来ることは無い。
でも、タクヤは・・・。
「えっと、伝えてもらえるかな。『もう、直接来ないで下さい』って・・・。」
何か言いたげな彼女からも逃げるように、私は電話を先に切る。
先日新しくしたばかりの携帯電話を鞄の中にしまい込んで、空を見上げた。
どこかへ消えてしまいたい。
許されるならば、二人との思い出を持ったまま、遠い遠い誰も知らない街へ行きたい。

青い空を小さな飛行機が横切っていった。
私はただそれを見送っていた。

さよならの物語

2005年12月27日 連載
第23話

『勇樹、パソコンでのメールなんて久しぶりだね・・・』
そんな書き出しで、長いメールを書いた。
携帯での一言二言のメールが当たり前のようになって、
すっかり心の中の思いを綴ったメールを送ることなんてなくなっていたけど、
確か、勇樹と付き合い始めた頃は、毎日のように長いメールを仕事が終わった時間に
送りあっていた。
そんなことをふと懐かしく思い出した。

『勇樹と一緒に過ごす時間を断ち切れずに、また二人の時間が始まって、
前と変わらず勇樹のことを思う私がいることが分かった。
でも、前の私と、今の私が違うって言うことを勇樹に話さなくちゃいけないんだ。
勇樹と終わって、ううん、妻子ある勇樹との寂しさから、私の気持ちが勇樹だけではなくなった。
今、私の心の中にいる男性は、勇樹だけじゃない。
ゴメンね、それを最初に言えなくてごめんね。
ルール違反だったね。
勇樹と一旦けじめをつけてから、私はその男性と生きていこうと思った。
遠い町に住む勇樹、この先会うこともない、会わなければ忘れられる、そんな気持ち。
でも、再会したとき、勇樹を忘れられる訳がないって知ってしまった。
彼も好き、でも、勇樹のことも好き。
なんてひどいことをしているんだろうね、私。
でも、こんな私がここに来て、誰かを選ぶなんて出来ない。
出来ないし、そんなえらそうなことするわけにいかない。
でも、私はこの心の中の気持ちを終わらせることも出来ない。
出来ないから、本当にゴメンね。
それだけしかいえません。

彼と出会う前、勇樹と一緒に過ごす時間だけを心から幸せに思えた頃、
勇樹が結婚していなければ、そんな夢も見たりした。
でも、そんな絆がなくても満足してしまう私も存在している。
勇樹が、勇樹である限り、私は貴方から離れられないのかもしれない。
でも、彼への想いも嘘じゃない。
出会い方が違っていれば、どちらか一方と出会わなければ私は幸せだったのかな。
でも、違うね。
私は勇樹と出会えた事を、本当に嬉しく思うし、その彼と出会ったことも嬉しく思う。
そんな私は、もう、誰といる資格もないのかもしれない。
勇樹、本当にありがとう。』

送信ボタンをクリックする。
画面には「送信しました」の文字。

私の想いは、私にもどうすることが出来ない。
だから、私の出来ることは、どちらの優しさにも甘えないこと…
私は、ポケットから携帯電話を出し、そして、電源をオフにした。
後で、番号を変える手続に行こう…。
勇樹とタクヤ。
タクヤと勇樹。
様々な記憶を手繰り寄せながら、もう、彼らには会ってはいけないと考える。
どちらも選べないなら、どちらを選んでもどちらかもう一方への想いが残るのなら、
私はどちらの手も取るべきではない。
結局、皆を傷つけて、一人になって、それが結末だなんてバカだね私。
人は一体なんのために、人を好きになるの?
自分が幸せになる為?
誰かを幸せにしてあげるため?
私は、何も出来なかったな。

必死に何かをこらえながら、私は静かにパソコンの電源を落とした。

さよならの物語

2005年12月22日 連載
第22話

それからの私とタクヤ。
仕事で顔をあわせても、出先ですれ違っても、それまでの二人が無かったかのように
よそよそしく、言葉も交わさず。
でも、タクヤが何かを言いたげなのだけは分かっていた。
そして、私も、このままでいいわけが無いことは分かっていた。

私は、勇樹とのことがタクヤに知れなければ、そのまま悩むことも、考えることも無く、
そのまま二つの道を走っていたのか?
やはり、私のこの二つの心を知ってもらった上で、もう一度タクヤと話がしたい。
話をしなければいけない気がする…。

この季節にしては暖かいその日、私は久しぶりにタクヤと向かい合った。
何から話していいか分からない。
そんな私より先に、タクヤが口を開いた。
「イブ、人の気持ちって、簡単に操れないよね。
自分自身の気持ちでさえも思うようにならない。
俺はそれをわかっているし、もっとそういう気持ちの深さを理解しようとした。
でも、やっぱり、どうして俺だけを見てくれなかったのか、という思いが消せない。
イブの俺との時間が全部ウソに思えてしまう。
このまま、もう、イブとは二人で過ごせない、そう考えてもみた。
でも、できないんだ。
俺には、イブが必要なんだよ。
俺より前に出会っていた人との、しかも、俺と付き合う前に既にそういう関係だった
その人との想いが残っていることは、仕方がないと思う。
人の気持ちは、そんな簡単には整理できない。
だから、もし、イブがこれからも俺と一緒にいたいと思ったうえで、
その人への気持ちをきちんと整理していこうとしてくれるのなら、
俺は、イブと一緒に頑張りたい。
俺も、その整理を手伝いたい。    」
まっすぐに私を見つめるタクヤの瞳。
久しぶりにタクヤの顔をまっすぐにみた。
そこまで言ってくれるタクヤの思いに私は答えられるのだろうか。
少しでも、不安があるのだとしたら、こんなにまっすぐで誠実なタクヤの優しさに
甘えてはいけない。
中途半端な答えを、タクヤは求めていないはず・・・。
私は、一つ深呼吸をして、タクヤを見つめ返す。
「たくや、ありがとう。そして、本当にごめんなさい。
タクヤの今の言葉、しっかりと考えたい。
そして、これからの私と、私の進む道を考えるために
少し時間をもらいたいの。だめですか?」
タクヤは少し微笑んで、そして、首を立てにふってくれた。

タクヤ・・・。

私は複雑な思いを飲み込んだ。
タクヤか勇樹か。
そんな単純な問題でないことも分かっている。
何も分からないまま、唯一つタクヤの笑顔を前に考えたことは、
タクヤをこのままにして、タクヤにこの思いをさせたまま、
もはや勇樹とは今までのように過ごすことはできない。
勇樹にも、このことを話さなくてはいけない。

さよならの物語

2005年12月20日 連載
第21話

私は、タクヤのことが大好きで、とても大切に思っている。
それだけは、偽りの無い事実なの。
だから、タクヤへの想いが揺らいでいるとか、少なくなったとかいうことではない。
ただ、タクヤと過ごす前の勇樹への気持ちが、きちんと終わっていなかった。
終わらないままくすぶっていた。
それを私はどうすることもできなかった。
でも、タクヤを裏切ったことからは逃げられないね…。
ごめん、では済まされないよね。

私の目の前でコーヒーカップの取っ手に手を添えたままのタクヤ。
私を見ないタクヤ。
私はタクヤから目をそらし、冷めてしまったコーヒーを口に含む。
タクヤにこんな思いをさせたかった訳じゃない。
勇樹への未練をきちんと断ちたくて、
もう一度勇樹と向き合ってきちんと納得した終わりを迎えたかっただけ。
でも、ほんと、そんなのいい訳にしかならないね。
タクヤからしたら、ただの二股にしか思えないはず。
タクヤはこんな私を許せないはず。

「タクヤ、本当にごめん。浅はかな私はタクヤと一緒にいる資格はないね。」
「・・・。」

何も言わないタクヤを前に、私はなす術もなく、やはりうつむくしかなかった。
そしてどのくらいの時間が経ったのか、タクヤは何も言わず、そして私を見ないまま
席を立ってどこかへ行ってしまった。

さよならの物語

2005年12月14日 連載
第20話

勇樹と向かえる朝の寂しさをなんて表現したらいいんだろう。
彼の腕の中で満たされていながら感じるセツナさ。
私たちが永遠のものではないからだね。
決してこれ以上を望んではいけない私と勇樹との関係は、
だからこそ余計に美化されてしまう。
そんなことを考えながら勇樹の寝顔を見つめていた。
私の視線を感じたのか、勇樹が寝返りを打って、そして私へと手を伸ばした。
隣で目覚めた勇樹の瞳に吸い込まれる。
でも、そんな静かな時間は続かない。
それぞれの場所へ帰っていく時間が迫ってくる。
「また、来月の予定を決めような。」
「うん」
うなずきながら私たちは身支度をして、それぞれの車に乗り込み、
しばらくの間前と後で並んだまま走る。
そして、次のジャンクションで右と左へ別れていく・・・。
その手前のサービスエリアに2台は並んで入った。
沢山の人と、車の中で、私は一瞬だけ勇樹の胸に頭を預ける。
勇樹も、優しく私の頭をなでて、
「じゃあ、また。」
そういって、BMWのシートに座り込んだ。
勇樹の車を見送ってから私も車に乗る。
勇樹との時間は、ここで切り替えなくてはいけない。
自分の心に言い聞かせて、アクセルを踏み込んだ。

勇樹との余韻に浸るまもなく、電話がなる。
タクヤからの着信。
「イブ・・・。」
「どうしたの、タクヤ?」
「今、どこにいる?」
「今、移動中。高速道路だよ。仕事帰りなの」
うそをつく。
嘘の苦しさ、これからの不安。
私は、複数恋愛をしたい訳じゃない。
妻子ある人との付き合いを喜んでしている訳じゃない。
誰もうらぎりたくないし、傷つけたくない。
こんなことがいつまでも続くと思っていない。
今だけ。
必ずきちんとするから。
自分の気持ちと向き合って、答えを出すから。
タクヤへ向けて、心の中でつぶやく。
「イブと話がしたいんだ。どこかでお茶しない?」
「いいよ。」
なんとなく元気がないタクヤとの待ち合わせ場所へ向う。

勇樹から遠ざかり、タクヤへと近づいていく私の車。
勇樹とタクヤが交錯する頭と心。
何も考えられないままタクヤの待つところに到着した。
1週間ぶりのタクヤ。
気のせいか、とても無口で、寂しそうな表情をしている。
胸に、グッとくるものがある。
そんな私をタクヤがいきなり抱きしめた。
「イブ、おれ、苦しいよ」
タクヤの瞳を覗き込む。
「おれ、さっき、偶然みてしまったんだ。イブが誰かと一緒にいるところ…」
タクのまっすぐな瞳から目をそらせなくなった。
鼓動が早くなる。
「タク・・・。」
「答えてくれないか?話してくれないか?このまま何もなかったようにはできないんだ。
イブの話を聞かないと、おかしくなりそうなんだよ・・・」
苦悩を浮かべるタクヤは、私を拒絶しているようにも見える。
もう、ダメだね。
これ以上、タクヤを裏切れない。
「ゴメン。何もかも、正直に話すよ。ごめんね、タクヤ」
私は、あの再会の日、どうして勇樹の腕に飛び込んでしまったんだろう。
それは、タクヤへの想いを持ってとめられなかったの?
自分の心に問いかけながら、タクヤを見る。
全てを失う覚悟で、私は口を開いた。

分からない

2005年12月5日 恋愛
私は何を考えて、何をしようとしているのかな。
自分のことなのに、全然わからない。
どうすることもできない。
だから、今は、何もかも行動してみようと思う。

あの時こうしていれば良かった、っていうしなかったことへの後悔だけはしたくないから。
だって、してしまったことへの後悔は、自分の責任だし、自分で納得できるはず。
だから、色々なことから逃げないでいたいとおもう。

それに伴って着いてくる結果がどうなるか。
今の私には全く分からないんだ。

その中の一つ。
週末、半年ぶりに勇樹と再会する…。

さよならの物語

2005年12月4日 連載
第19話

私の中の二つの時計。
どんどん、どんどん時間が流れて、季節がめぐっていく。

大切で愛しいタクヤとの日常が積み重なり、タクヤの優しさに包まれて、私は満たされる。
二人のこれからを想像して夢を見る。

日常から切り離された勇樹との逢瀬に、ドキドキしながら駆け寄っていく私。
1ヶ月30日の中のたった一つの夜を、叶わない夢を追い求めるかのように
勇樹と私は抱きしめあう。

その二つは重なることも、すれ違うこともなく、ただパラレルラインをたどっていく。

その日、雪がちらつく道を私は悲しいラブソングを聴きながら車を走らせていた。
夏は観光客でにぎわうはずのその場所も、さすがにこの季節は静かな息づかい。
そして、暗くなった街を彩る幻想的なイルミネーション。
はかないその小さな灯りの一つ一つが、まるで私と勇樹の思い出のようだ。
「勇樹・・・」
その名前をつぶやきながら、彼との待ち合わせの温泉旅館に近づいていく。
1ヶ月の空白を飛び越えるかのように、勇樹へと向っていく。

「今週末はどうする?」
当たり前のデートの約束をするかのようなタクヤの問いかけに
「ごめん、今週は仕事があるんだ」
そうウソをついたのはおとといのこと。
何も疑わず、ただ少し寂しそうな表情で、「仕事、頑張れよ」そう言ってくれたタクヤ。
そんなタクヤへの切なさが浮かんでくるけれど、そこへやってくるのが
勇樹と会える嬉しい気持ち。
様々な思いを抱いて、温泉旅館への入り口に車を乗り入れた。
駐車場には既に勇樹の車が泊まっている。
自然に浮かぶ笑顔をルームミラーに映して深呼吸。
旅館の女将さんに先導されて、私は勇樹の待つ部屋へと向う。
「お連れ様も、30分ほど前に着いたばかりですよ。」
そういって立ち止まると、部屋のドアの前に立ち、呼び鈴を鳴らした。
「お連れ様が到着されました。」

数秒後・・・。
開いたドアの向こうには、暖かな優しい笑顔の勇樹。
いつもそう。
1ヶ月ぶりに会うとき、まるではじめてのデートの時のような気持ちになる。
タクヤと毎日顔をあわせるときのような安心感ではなく、
また一からはじめるような緊張と新鮮さ。
どんなに時がたっても、何度逢瀬を重ねてもそれだけは変わらない。
女将さんがお茶を入れて部屋を後にする。
二人きりになったその部屋は、どうしていいか分からない切なさに包まれた。
「イブ、久しぶり」
せせらぎが聞こえる部屋の中、勇樹に手招きされて縁側へ進む。
差し出された手を握る。
そっと抱き寄せられ、そして、唇を重ねる。
久しぶりの勇樹のぬくもりは、きちんと私の中で覚えていて、
前に会った時から次に会うまでの間のタクヤのぬくもりで消されて忘れてしまうかも
なんていう心配は不要なんだって思い知る。
決して忘れることはできないのかもしれない。
前に一度さよならをしたときも、今も、そしてこれからも…。

離れ個室の閉ざされた空間の中で、勇樹と過ごす貴重な時間。
ゆっくり食事をしながら、1ヶ月の間に起こった出来事を話し、
笑ったり、一緒に考え込んだりする。
ふと会話が途切れて、見詰め合う。
そっと、寄り添いながらグラスを傾ける。
冬の星を部屋の窓から見上げながら、勇樹と出会ってからのことを思い出す。
「二人で色んなところへ泊まったね。」
私の腰に手を回して優しく微笑む勇樹。
「そうだな。今回のここも結構、いや、かなりいいね。」
「また、違う季節にも来てみたいね。」
「うん、今度は春がいいかな。新緑の季節。また来よう。」
隣の勇樹を見つめる。
お互いの瞳の中に、その姿を探して、そして目を閉じた。
そのまま、勇樹の重さを受け止め、そして、勇樹の温もりに包まれる。
一瞬、タクヤが頭をよぎった。
悲しい表情のタクヤ。
でも、勇樹の腕の中で勇樹の熱い息遣いを感じる私は、もう何も考えられなかった。
そして、その夜、勇樹は私を抱きしめたまま離そうとしなかった。

さよならの物語

2005年12月3日 連載
第18話

「最近のイブ、なんだかとても優しくなったよね。いや、もともと優しかったんだけど。特にそう感じるんだ。」
夜の街。
食事をして、軽く飲んで、私の家へ帰る途中、タクヤが照れくさそうにつぶやいた。
優しいタクヤの表情が私の胸の中を締め付ける。
『ごめん・・・』
声にならない言葉を心の中でタクヤへ向ける。

最近の優しさ。
タクヤがそれを感じ取っているとしたら、それは決して純粋なものじゃない。
終わりにしたはずの勇樹と、また二人の時間を動かしてまったことの罪悪感からの優しさ。
懺悔の気持ち。
タクヤと今までと変わらない時間を重ねながら、タクヤだけのことを考えているフリをしながら
私の心にはタクヤと勇樹が住んでいる。
回りからはひどい裏切りだといわれるかもしれない。
でも、それとも違う。
私は、人としてタクヤも勇樹も尊敬して、好きで、大切にしたいんだ。
誰かと付き合ったら、他の人を大切に思うことはいけないことなの?
自分以外の他人を好きだと思うことはいけないこと?
ううん、そうは思いたくない。
誰かを好きになること、自分以外の誰かを大切にしたいという気持ちは
絶対に尊い気持ちのはずだと信じたい。
『でも、許されないよね。タクヤは許してくれないよね。』
無言で隣のタクヤを見つめる。
私のそんな心の声は届いたんだろうか。
ふと、人通りが途切れた街のかたすみでタクヤはそっとキスをした。
暖かいタクヤのぬくもり。
このぬくもりがいとおしいと思う。
心から大切にしたい、失いたくない。
タクヤ・・・・。

その時、胸元のポケットの携帯がメールの着信を知らせる。
勇樹と再会してから、タクヤといるときもバイブにしたままになった私の携帯電話。
そして、今のメールはきっと勇樹。
タクヤのぬくもりを感じながら、勇樹を思う。
このままじゃいられないことは分かっている。
いつか、私は大切なモノを失ってしまう日が来る。
でも、もう、自分で決められない以上、誰かに任せてしまいたい。
ゆだねてしまいたい。
そして、私はそれを受け入れるしかない。

タクヤの背中にそっと手を回しながら、複雑な思いも抱きしめた。

来週

2005年12月2日 恋愛
来週、半年以上ぶりに勇樹と会うことになりそう。
昨夜のメールで「会いたい」と誘われ、
今日、「予定を見てみるね」と返事を送った。
こんなやり取りをしながら思ったこと。

私いったい何をしているんだ?
タクヤを裏切っていいの?
勇樹とまだ終わっていないの?
会ってどうなるの?
これからどうしたいの?

タクヤと付き合おうと決めたとき、終わりにしたはずの勇樹との恋。
自分の気持ちにも蓋をした。

今なら断われる。
会わずにすむ。
会ってしまったら、私は勇樹を拒めない。

タクヤと勇樹。
私は何をしているんだろう。

普通の

2005年11月18日 恋愛
今日は久しぶりに普通の日記。
(決してネタ切れではない・・・汗)

最近の生活がとっても穏やかで、心が満タンっていう感じ。
タクヤは我が家にしっかりと住み着き、
「いってらっしゃい」と「ただいま」の生活が続いている。
とうとう、子供と私VSタクヤは客間という寝室別々の生活から、
三人で同寝室の生活にもシフトして・・・・。
うちのチビの様子を何気に伺っていたけど、最近はしっかりなついている様子。
タクヤの足にもたれかかってテレビを見ていたり、
朝食後、タクヤの膝にするっと入り込んだり。
そして、私とタクヤとチビの三人でキスをし合ってじゃれたりしている。
大切な、大好きな人がいる生活。
チビが寝てから毎晩2,3時間、部屋の明かりを落として、軽く飲みながら
話をして、触れ合って、キスをして、そしてまた話をする。
今のこの生活がずっと続きますようにと願わずにはいられない。

その一方で、勇樹からは携帯にメールがる。
不倫だったから、気持ちのやり場がなくなったから、そういう理由のみで別れただけで、
決して『好き』と言う気持ちが揺らいだわけではないから、
タクヤがいることが分かっていても、タクヤを失えないと分かっていても、
勇樹を突き放せない。
勇樹への思いをふりきれない。
タクヤが勇樹とまだ繋がっている私の事を知ったら、私は何もかも失ってしまうね。
バカだな、私。
本当に、バカだ。
来月、一緒に温泉へ行こうといっている勇樹。
私はそのとき、どうするんだろう。

さよならの物語 

2005年11月15日 連載
第17話

ホテルのロビー。
私は腕時計を見る。
2本の針が指す時刻を確認しながら、私が意識しているのは時間じゃなく、その時計の思い出。
そう、勇樹にもらったエルメスの時計。
出会って、惹かれて、付き合って、そして終わったはずの勇樹との恋は、この時計のようにまだ時を刻んでいるのかな。
それとも、心の中でその時計は動かなくなっているのかな…。
確かめるのが怖い、でも、確かめたい。
ううん、そんな理由じゃない。
ただ、私は勇樹に会いたくて、この披露宴に駆けつけたのかもしれない。
ごめんね、タクヤ・・・。

大きな鏡の前に立ち、そこに映る自分の姿をながめる。
勇樹に最後に会ったのはいつだっけ?
久しぶりに会って、『キレイになったな』とか思ってくれるのかな。
頭の中が勇樹で一杯になる。
と、そんな私の肩をたたく人・・・。

「イブ、元気だった?」
「勇樹…。」
少し痩せた彼を見て、久しぶりに見たその笑顔を見て、私は苦しくなる。
まだ、時計の針は止まっていないよ。
「おめかししてるじゃん、今日のイブ。」
「当たり前、ハレの日を祝う日だもの。それに…。」
「それに?何?」
「勇樹に『俺と別れてからこいつ老けたな』なんて思われたくないし。」
冗談めかして笑った私を勇樹が寂しそうに見つめる。
思わず、その場を立ち去りたい衝動に駆られた。
きっと、このままここで二人でいたら、私はタクヤを裏切ることになってしまう
”先に席にいくね”そう言って勇樹から離れようとした私の腕を懐かしいぬくもりが引き止めた。
「イブ、待てよ。」
「…。」
「俺は、イブと別れたなんて思っていないよ。俺は、まだイブとは繋がっていると思っている。」
「違う、勇樹。違うよ、私は…。」
言いかけた私の言葉をさえぎって、勇樹が私にまっすぐ向き直る。
「そんな簡単に終れるのか?イブにとって、俺はそんなに簡単に割り切れる男だったのか?」
真剣な勇樹。
こんなに真剣に気持ちをぶつけてくる勇樹を知らなかった。
「でも、勇樹。貴方には大切な家族があるから…」
沢山の人が行きかうその場所で、勇樹が私を抱き寄せた。
「ゆ、勇樹。人が見てる。」
私の言葉には耳も傾けず、さらにその腕に力が入る。
「俺は、俺が一番大切なのはイブなんだよ。本当なんだよ。イブが別れるって言ってから、悩んで、葛藤して、俺の中で出した答えはそれだったんだよ。」
胸が苦しくなった。
一瞬、タクヤの顔が浮かんだ。
でも、私の封じ込めたはずの思いが、その閉ざされた扉からあふれ出てしまう。
「バカ・・・、勇樹のバカ。いまさらそんなこと言っても遅いんだから」
瞳に浮かぶ暖かいものをこらえながら、勇樹の胸をたたく。
「イブ。遅くなんかないよ。」
ううん、と首を振って私は勇樹の胸に顔をうずめる。
「大丈夫。遅くない。今日、ここで会えたから遅くないんだ。」
とうとう涙がこぼれる。
「勇樹、勇樹の上着汚れちゃうから離して・・。」
「嫌だ。」
私は熱い息を吐きながら、その背中にそっと手を回す。
忘れていない勇気の胸、背中、抱きついたときのこの感じ…。
「私は、どうしたらいい?ねえ、勇樹。分からないの」
心の中に渦巻く気持ちを自分で対処できない。
「大丈夫。もう一度俺の手を取ってくれれば、あとはもうお前は何も心配しなくていい」
「・・・。」
勇樹の言葉に、私の中の冷静さが失われていく。
もう一度、勇樹と・・?
心の中で自問自答。
タクヤは・・・?

その日、披露宴を終えた私はホテルの部屋から東京ベイの夜景を見ていた。
そんな私を後から抱きしめるぬくもりを、私は懐かしくいとおしむ様に受け止めた。

さよならの物語

2005年11月8日 連載
第16話

「おはよう」から「おやすみ」まで、とった食事も、テレビの番組も、何から何まで同じ。
そんな風にタクヤと過ごした南の島での時間は、文句のつけようがないほどの時間だった。
心の中に、タクヤの存在がしっかりと根付いた感じ。
私は、タクヤとずっと一緒に歩いていける、そんな気持ちで、またいつもの生活に戻った。

タクヤとの時間がまるで雪のように降り積もっていく。
どんどん積もって、今までのこと、勇樹との時間、全てを覆い隠してくれれば、
もう私は何も思い悩むこともない。
このまま、タクヤとの時間を重ねて行きたい。

そんなある日、私の手元に届いた、結婚式の招待状。
差出人を見たとき、心が波打つのを感じた。
それは、私と勇樹との共通の仲間の招待状だったから…。
どうしよう。
今、勇樹に会ってしまって、私は大丈夫かな。
タクヤと重ねてきた時間を揺るがすことはないだろうか。
自信がないなら、不安が少しでもあるなら、行かない方がいいかな。
どうしたらいいんだろう。
嫌いになって離れた訳じゃない、だからこそ、再会したときの私の気持ちが不安だ。
出席か欠席か、いつまでも決められないまま頭を抱える。
でも。
恐れていてはいけない、ここで自分の気持ちを再認識した方がいいに決まっている。
いつまでも逃げていたら、過去にすらできないかもしれない。
だから、今、この時期に勇樹に再会してみるべきかもしれないね。

3週間後に迫った、仲間の結婚式。
落ち着かない気持ちでその日を迎える私がいた。

さよならの物語

2005年11月8日 連載
第15話

現実の世界から切り離されたその街にたどり着いた。
私は、レンタカーの運転席に座るタクヤを見つめる。
タクヤの向こうには、太陽の光に照らされた、まばゆいばかりの海が広がっている。
二人の目指すホテルまでは、もう少し。
タクヤの左手に私の右手をそっと絡ませる。
タクヤのぬくもり。
これからの私は、このぬくもりだけを見失わずにいればいい。
このぬくもりが、私の道しるべになるんだ。
ラブソングを口ずさんでいるタクヤの横顔にそっと誓う。
『私は、アナタとこの先の未来を歩いてゆきたい…』
私の心の中の声が届いたのか、ただの偶然か、タクヤが一瞬私を見る。
そして、再び前方を見ながら続きを歌い始めた。

ここのところ、タクヤと二人で過ごす時間が増えて、私が私らしくいられる場所はタクヤの隣なんだと気がついた。
勇樹の隣にいるとき、私はいつも無理をしていたように思える。
大人の勇樹につりあうように、背伸びをしていた。
最初から不倫だと分かっていたから、寂しいときに寂しいといえなかった。
これからの二人、そんな話題は決して出せなかった。
未来がない私と勇樹の恋の中で、私はいつも苦しくて苦しくて、辛かったんだ。
その辛い気持ちを恋だと思っていたのかもしれない。
でも、今の私は違う。
等身大の自分で、寂しいときは寂しいといえる。
これから先の二人についても話をすることができる。
次の約束なんてしなくても、毎日のように会うことができる。
無理のない二人、それが一番大切なことだと思うようになった。

「さ、ここを曲がれば到着かな?」
ウインカーを出して右に曲がった私達の車は、南国の宮殿のような建物の正面に着いた。
「タクヤ、運転お疲れ様。」
大きく伸びをして、二人で見詰め合う。
「とうとう来ちゃったね。」
「ああ、来ちゃったな。」
ドアマンが車のドアを開けて、私達をレセプションへと招いた。
「リゾート・ベイ・ホテルへようこそ」
スタッフのさわやかな笑顔と、暖かい風、甘い柑橘系の匂い。
それだけで幸せな気分になってしまう。
案内されるまま、手をつないだ私達は、二人の部屋へと向った。
スタッフが下がった後、後ろからタクヤに抱きしめられる。
「やっと、二人きりで過ごせるね。」
タクヤのほうに向き直って、その広い胸に頬を寄せる。
そんな私をさらに強く抱きしめる腕。
タクヤの腕の中で、泣きそうになる。
「幸せすぎて怖い。誰もこの幸せを壊さないで欲しい・・・。これ以上何もいらないから…」
「大丈夫だよ、イブ。心配しなくていいから」
小さくうなずいて、目を閉じる。
開け放ったベランダの窓から、綺麗な鐘の音が聞こえる。
「なんだろう?」
二人でベランダに出てみると、海に面したチャペルから幸せそうな二人が出てくるところだった。
「結婚式か・・・、こんなところでロマンチックだね。」
「ああ、本当だ」
長いベールの白と、海の青、空の青、砂の白・・・。
「キレイ…。」
思わずため息がでてしまう。
隣に寄り添うタクヤが、ちょっとテレながらつぶやく。
「いつか、俺達もしような」
見知らぬカップルに自分達の姿を重ね合わせながら、私は微笑んだ。

翌日、朝の光の中でまどろむ私の隣に、タクヤの寝顔。
そうか、沖縄に来ていたんだよね…。
タクヤに背を向けて、ベッドから出ようとした瞬間、後ろから抱きしめられる。
「おはよう」
「おはよ」
白いシーツの中で、そっとキスをする。
タクヤはさらに強く私を抱きしめる。
「どこへも行かせないよ。イブは、俺のこの腕の中にいなくちゃダメなの」
額、頬、首、腕、胸・・・。
タクヤの優しいキスを受け止めながら私は目を閉じる。
「もう、戻りたくないね。ずっとここにこうしていられたら幸せなのにね」
体全体で幸せを感じながら、そっと息を吐く。
「タクヤ、ずっとずっと私を離さないでね。」
タクヤの耳元でささやいて、私も優しいキスを返した。

さよならの物語

2005年11月7日 連載
第14話

私の頑張りだけで勇樹との恋愛が続いていたんだと知ったのは、
あの海の日を境にして連絡が途絶えたのが理由。
そういえば、いつも私が会いたがっていた。
メールもほとんどが私からだった。
タクヤに背中を見守られる中での「勇樹とのさよなら」は、悲しいくらいにあっけなかった。
私からのさよならのメールに、勇樹はこう返してきた。
【このところ時間が取れなくて全然会えなかったのが理由かな?
 ごめん。俺がイブに甘えていたね。
 イブの寂しさや悲しみに気がついてあげられなかった。
 今、俺は何て言えばいいんだろう。
 もう、会えないんだね・・・、ごめん。  】
そして、私はそのメールには答えなかった。
もっと私を追ってくれてもいいじゃない、そんな気持ちがあったけれど、
冷静に考えれば、勇樹は潔い人だったから、
不倫の彼女を引き止めるようなことはしないって、最初から私には分かっていた。
さよならを言い出したくせに、追いかけて欲しいなんて期待をしていたバカな私。
それに、私にはタクヤがいる。
これからは、誰に遠慮することもなく、誰の目を気にすることもなく、
タクヤに向っていけばいい。
そんな当たり前の恋愛が、これほど暖かいものだってことを、
勇樹と出会ってからの私は忘れていたんだ。
”不倫”をして私の中に残ったものは、なんだったんだろう。
もう、二度と不倫はしない、という決心くらいなのかもしれない。
勇樹のことなんてすっかり思い出になって、日常の中では思い出すこともなくなって、
そんな時が早くくるといい…。

「ねえ、夕暮れの寂しい海じゃなくて、キラキラ光る青い海が見たい。」
隣の席でコーヒーを飲むタクヤ。
「青い海か。じゃあさ、沖縄に行こうか。」
「うん、行こう!行きたい!」
コーヒーカップをテーブルにおいて、手帳を取り出したタクヤを見つめる。
パラパラとめくって、仕事の予定を見ている。
「イブも仕事を休むのは2日が限界でしょ?だから、土日を入れて四日間でどうかな。」
私もバッグから手帳を出してスケジュールを確認。
二人の予定を照らし合わせると、2週間後の週末がぽっかり空いている。
「よし、決定。青い海を見に行こう。」
笑顔で私も答える。
「じゃあ、本島にするか離島にするか決めよう。」
即座に私の頭に浮かんだのはかつての勇樹の言葉。
『何年後か、宮古島に一緒に住もうよ。海は綺麗だし、いいところだよ。』
冗談だったのか、本気だったのか今となっては分からない勇樹の言葉。
それを思い切るように、私は首を振る。
「本島にしよう。本島のリゾートホテルでタクヤとゆっくり過ごしたい。」
「海を見たり、お昼寝したり、読書したり・・・」
「そう、そういうのがいいの。そういう時間を一緒に過ごしたいの」
離島は、叶わなかった勇樹との思いがあるから、今は行きたくないの。
ごめんね、タクヤ。

そして、2週間後、私はタクヤと共に、南の青い海を目指して旅立った。
飛行機の中、タクヤの肩にもたれかかって、優しい夢を見ていた。

さよならの物語

2005年11月6日 連載
さよならの物語
第13話

フライング状態で始まったタクヤとの時間。
そして、その影で同じように時を刻む勇樹との時間。
タクヤと勇樹の間で揺れ動く私の気持ちは流れの違う空間の中を行ったり来たりしていた。

「イブ、俺仕事の打合せで近くにいるんだけど、良かったら昼飯一緒に食べない?」
「今日、仕事が終わったら、気分転換に泳ぎに行こう」
「週末、予定がないなら、ふらっとドライブに行かないか?」
タクヤからの誘いが増えて、一緒に過ごす時間も積み重なっていく。
今まで、ただただ勇樹からの連絡を待って、期待はずれでがっかりして、
次に会う日の約束さえなくて、不安になって眠れなくて。
そんな風に過ごしていた私の一人の時間がタクヤで埋め尽くされる。
それと同時に、勇樹との会えない日々を指折り数えることがなくなった。
今までは見えない勇樹の時間をいらない想像をしては、自分で自分を追い込んでいた。
そんな勇樹とのマイナスの時間を、タクヤがすっぽりと包み込んでくれていた。
そんなある日、タクヤからのお誘い。
「今日、仕事を早めに切り上げて、夕日を見にいかないか?」
「夕日?」
「そう、ちょっと足を伸ばして、海まで行って、夕日を眺めよう」
デスクの前のホワイトボードを見る。
今日の予定は・・・、2時の打合せを済ませれば午後は私が抜けても大丈夫かな。
「うん。そうしよう。3時には仕事が終わりそうだから」
「じゃあ、その頃、イブの事務所まで迎えに行くよ。」
電話を切って、手帳を開く。
開いた手帳の間に一枚の写真。
勇樹と私が幸せそうに笑っている。
勇樹となかなか会えなくて、電話もできなくて、そんな時、いつもこの写真を見ていた。
写真の中の二人は、本当に穏かに笑っていたから。
でも、最近、タクヤが私の精神安定剤だから、この写真を見ることもなくなったな・・・。
もう、こんな写真を持ち歩いていちゃいけないね。
結局、「忙しくてごめんね」を理由に、勇樹とは3ヶ月も会っていない。
そして、そんなにも会わずにいられちゃうっていうことが寂しいながらも現実なんだ。
それだけ今の私は、タクヤに支えられているっていうこと。
タクヤの存在が大きいっていうこと。
タクヤ・・・、私はタクヤの優しさに答えたいよ、ううん、答えなくちゃいけない。
勇樹とどうなっているのか、連絡を取っているのか、そういうことの一切を聞かずにいてくれるけど、
その奥でタクヤも寂しい思いを抱いているはず。
そして、何が大切なのか、誰とこの先を進んでいくのが正しいのか私も分かっている。
もう、本当に、ずるい私は卒業しなくちゃ。
何もいわないタクヤに甘えてばかりじゃダメ。
手帳から抜き出した写真を机の上におく。
そして、勇樹に渡された日からずっとはずすことのなかったネックレスをはずす。
バッグの中にそっと二つの思い出を閉まいこんだ。

「すごいね、こんなに綺麗な夕日、初めて見たよ・・・。」
隣に座るタクヤにつぶやく。
「俺も・・・。」
まぶしそうに目を細めながら、タクヤもじっと夕日を見つめている。
私は、バッグの中から写真と、ネックレスを出した。
手の中に握り締め、その手を胸にしばらくあてたまま目を閉じる。
…勇樹、勇樹との思い出は心の中だけでいいよ。
形として残るものは、私達の関係にはふさわしくないし、ね。
「タクヤ、ちょっとここにいてくれる?」
私は、一人で立ち上がって波打ち際までゆっくりと歩く。
私の背中を優しく見守っていてくれるタクヤの暖かさを感じたまま砂の上を進む。
そして、その波の中にネックレスを投げ入れた。
砂にまぎれてすぐに見えなくなったネックレス。
まるで、私と勇樹の恋のようにあっけない。
そして、最後に二人の写真を波に流す。
思い出の二人を破り捨てることはできない。
でも、この波に運ばれて、この二人の笑顔がどこか遠いところで生き続けてくれれば、
私と勇樹の誰にもいえなかったこの恋も救われるね。
一粒落ちた涙が、砂の上におちて、そして波に消されていく。
「勇樹・・・。」
最後に口にしたその言葉は、誰にも聞かれることなく、波の音に消された。
そして、夕日の最後の輝きの中、私は、タクヤの隣へと戻って行った。
夕日に照らされたタクヤは、いつもよりもっともっと優しい顔で私を抱きしめてくれた。

帰りの車の中、勇樹に最後のメール。
「もう、勇樹には会えない。終わりにしよう」
送信ボタンを押す指が一瞬ためらわれる。
隣でハンドルを握るタクヤを見つめて、そして、今度こそ…。
【送信しました】のメッセージ。
これでいいの、これで、ようやくけじめがつけられる。
自分の心に言い聞かせるようにして、携帯電話をバッグに戻した。
その直後、バッグの中で、何度か着信を知らせるランプが点滅したけれど、
私はそれに気がつかないまま、タクヤとラジオから流れる曲に耳を傾けていた。

さよならの物語

2005年11月5日 連載
第12話

照明を落とした店内に静かな音楽が流れている。
カウンター席に並んで座った私とタクヤ。
いつになく近い距離のせいで、必要以上に相手を意識してしまう。
そして私は、未だに言葉を捜していた。
何から話せばいいのか、何を話せばいいのか。
口から出てくる言葉は仕事の話や、今日の出来事、そんなあたりさわりのないことばかり。
煮え切らない私に痺れを切らしたのは、タクヤのほうだった。
「何か話したいことがあるんでしょ、イブ?」
タクヤを見ないまま、コクリとうなずいて、深呼吸。
「じゃあ、聞いてくれる?」
「もちろんだよ。」
赤い色のカクテルを一口飲んで、私は静かに口を開いた。
「私が妻子ある人と付き合っているって言うのを前に話たよね。
今も、その人とはお付き合いが続いているの。
でも、最近、このままじゃいけないって思い始めて。
だけど、だからって、何をどうしたらいいのかも分からなくて。
一方では、他に気になる人もできたんだけど、
でも、それだけをもってその妻子ある彼とさよならができるほど
簡単じゃなくて。
その彼ときちんと終わりを迎えられればいいのに、それができない自分が悲しい。
でも、新しく始まろうとしている私の気持ちも大切にしたい。」
隣のタクヤと腕が触れ合う。
ドキッとして思わずタクヤを見た瞬間、真剣なまなざしの瞳とぶつかる。
「けれど、このままの状況で走り出したら、自分が許せなくなる。
自分が苦しくなって、どちらからも逃げ出してしまう。
そして、相手を傷つけてしまう。
今の私は、まだ、新しい気持ちには進まないほうがいいんだよね?
きちんと、不倫の彼を過去にしてから、新しい気持ちに向き合わなくちゃいけないよね」
そこまでいい終えて、タクヤの横顔を見つめる。
何も言わないタクヤは、目の前のグラスだけをじっと見ている。
「私、ずるいよね。でも、本当に 自分では動けなくて、どうしようもなくて。
その答えを、人に求めるなんてずるいけど、でも、タクヤに決めて欲しくて。
タクヤの意見が聞きたくて。」
微妙な沈黙が耐えられなくて、カクテルグラスを一気に飲み干す。
カウンターの向こうのバーテンダーがそれに気がついて視線を投げてくる。
同じものを注文して、私はタクヤの手をながめた。
「もう、ここまで言えば、タクヤにはわかるよね、私の気持ち。」
シェイカーの音が心地よいリズムで耳に届く。
目の前に置かれた空のグラスに美しい液体が注がれた。
「俺、一言いっていいかな?」
「うん。」
怖くてタクヤを見ることができない私。
「イブ。イブは俺といれば彼のことを忘れられるの?終わりにできるの?」
「・・・。」
「俺はイブが好きだよ。でも、ずっと2番手でもいいと思えるほど俺はできた人間じゃない。
でも、今お前の1番じゃないなら付き合いたくない、といえるほど強くもない。
俺も、ずるいんだよ・・・。」
私は首を振って、うつむいた。
「タクヤはずるくない。タクヤの言うとおりだよ。自分の気持ちなのに、自分でどうすることもできない私がいけない。」
再び訪れる沈黙。
私にはもう、なんの言葉も見つからない。
そして、タクヤは何かを考えているのか目を閉じている。
「なあ、イブ。必ず彼とのことは終わりにするって約束してくれないか?それを約束してくれるのなら、俺は、イブとはじめられる。」
タクヤはグラスの中の氷を静かに鳴らす。
「ううん、今すぐ、イブとはじめたいんだ。」
「タクヤ・・・。」
「俺が、その彼とのことを忘れさせてあげるから。」
「忘れさせてくれる?でも、私はきっとタクヤを傷つけてしまうことがあるよ。
今すぐには、心の整理ができないから。だから、タクヤを傷つけるよ。」
「いい。それは俺が最初から承知の上で、イブと付き合おうとしている。
大丈夫、きっと、大丈夫だから。」
カウンターの下でタクヤが私の手を強く握った。
暖かいタクヤのぬくもり。
私の求めているものはこれなんだろうか。
今、このタクヤの優しさに甘えてしまっていいのだろうか。
「タクヤ、ごめんね。そして、ありがとう。」
このぬくもりだけを信じて歩いていけるように、このぬくもりを裏切らないで歩いていけるように、
私も頑張ろう。
タクヤの力と、優しさを借りて、勇樹との恋に終止符を打たなくては。
タクヤの手をぎゅっと握り返して、私は心に誓った。

さよならの物語

2005年11月2日 連載
第11話

一人の夜。
雨の音がヤケにさみしく耳に届く。
毎日の生活の中で交わす勇樹とのメール。
おはよう、おやすみ、一日の出来事、ふと感じたこと、目にしたもの。
そんな古いやり取りを読み返しているとキュッと胸が締め付けられる。
今、この夜に、勇樹は何をしているんだろう。
何を考え、何を想い、誰の隣にいるんだろう。
少なくとも、勇樹の日常に私は存在していなくて、私の日常にも勇樹は存在していない。
今、私の日常の中で、一番近くにいる男性はタクヤなんだろう。
勇樹が遠くなるほどに、タクヤが近くなる。
タクヤが近くなると、勇樹がますます遠くなる。
200KMの実質的な距離はどうすることもできないけど、もっと縮めたい何かがある。
なんとかして、それを縮めたいと、距離を埋めたいと思うのに、
逆らうことの出来ない流れに飲み込まれてしまったようで、私の意志だけでは
その距離を縮められないままだった。

私は、勇樹に会えない寂しさを、満たされない心を、
タクヤで埋めようとしているんだろうか。
だとしたら、ズルイよね。
そんなことを思い巡らせていると、たまらなく胸が苦しくなる。
どちらか、たったひとりの人と精一杯の私で向き合って行けたら、
きっと私はこんなにも寂しくはないはず。

ふと、心の中に一つの決心が浮かんだ。
タクヤに全部を話そう。
何も隠さず、今のこの私の状況、気持ち、考えていること全てを伝えよう。
その上で、タクヤが離れていくのは仕方がない。
不倫から抜け出せない私を軽蔑するのは仕方がない。
私が動けないなら、タクヤに判断をしてもらおう。
少なくとも、これが今の本当の私なんだから。
そして、もう、私一人の心の中では対処できないところに来ている。
誰かに決めてもらいたい、誰かにここから引っ張り出してもらいたい。
そんな思いに駆られて、私は受話器をとった。
もう寝ているかな・・・。
「・・・もしもし」
呼び出し音が途切れて聞こえてきたのは、ちょっと眠そうなタクヤの声。
「イブです。ごめんね、こんな時間に。寝ていた?」
「ううん、寝ようとしていたところ。大丈夫だよ。どうした、こんな時間に」
いつにも増して優しいタクヤの声。
こんなにも穏やかに話をする人だったかな・・・。
今まで、私はタクヤをきちんと見ていなかったのかもしれない。
「あの、近いうちに、一緒に飲みに行きませんか?聞いて欲しいことがあるの。」
「もちろん、いいよ。」
相変わらずの雨の音と、タクヤの暖かい声。
さっきまでの寂しい夜が、どこかへ行ってしまったかのように私の心は穏やかになる。
「じゃあさ、明後日の夜にしない?」
手帳をめくって、予定を確認する。
「うん、私は大丈夫。じゃあ、その日でお願いします。」
その後の数十分、他愛もない話をしながら、その日を終えることとなった。
まもなく眠りについた私は、優しい優しい夢を見ていた気がする。

メッセージ

2005年10月31日
若葉さん、DADYさん、リンクありがとうございます。
末永くよろしくお願いします。

さよならの物語

2005年10月30日 連載
第10話

私は自分の気持ちをなかなか言葉にできなくて、
今まで勇樹に対して何かを求めたり、我侭を言うことがなかった。
でも、今なら、今日なら言える、言わなくちゃ・・・。
なにも3時間かけて私の町へ会いに来てというわけじゃない。
仕事の合間にほんの5分でいいから会いたいというだけ。
アナタが生きているこの街で、アナタに会いたいだけなの。
そのくらいの我侭は聞いてくれるよね・・・?

皆での仕事が無事終了し、日が傾いた街を宿泊先のホテルへ向う。
「この後、みんなで飲みにいこうよ」
タクヤや、仲間達の声を聞きながら、私は勇樹にメールを送る。
【今晩、5分でいいから会いたい。勇樹の顔が見たい。せっかく勇樹の近くにきているから】
送信ボタンを押して、携帯電話をしまう。
果たして彼は会いに来てくれるのか。
それとも、返事すらもらえないのか。
「おーい、イブ。お前も行くだろ?」
「うん。途中でちょっと抜けるかもしれないけど…。」
仲間達の顔を見ながら言葉を濁す。
一瞬、その中のタクヤと目が合う。
「O.K。じゃ、18時にロビーへ集合な。」
エレベーターへ乗り込み、フロントで受け取った部屋のキーを見つめる。
ホテルに一人で泊まるのは、本当に久しぶりのことだった。
ここのところ、いつも勇樹が一緒だったから。
…と、4桁の数字が刻まれた真鋳のキーが足元に落ちる。
「・・・・。」
とてつもなく寂しい、いやな予感。
拾い上げると同時にエレベーターを降り、部屋のドアをそのキーであける。
いまだ返事の来ない携帯電話をベッドの上に投げ出し、
沈み行く太陽に照らされたこの街の景色をベランダから静かに眺めた。

その後、仲間達と入ったダイニングバー。
『勇樹には会えない』という不安を打ち消そうとする私は、
明らかに普段よりもグラスを開けるペースが早く、
そして口数も少ないことに皆も気がついているようだった。
タクヤの視線を感じる。
その視線をうけて、私の斜め前に座っているタクヤをみた。
”どうした。なにかあったの?”とでも言いたげな表情。
私は、何も答えずに赤い液体の入ったグラスを口に運ぶ。
タクヤが隣の人に話しかけられたのを見て、私は席を立ち店の外へ出た。
バッグから携帯を出してメールを確認する。
8時30分に着信がある。
勇樹・・・?
深呼吸をしながらメールを開封した。
【ごめん。明日も早くてさ。それなのに今だ仕事に追われている。
 近いうちに時間を作るから。本当にごめん。 勇樹】
大きくため息をついて、壁にもたれかかる。
やっぱり。という気持ちが一番大きいのが本音で、そんな自分が却って悔しい。
諦めの上に成り立っている私と勇樹の関係は、落胆することの方が多いから。
最初から諦めているほうが、傷つかなくて楽だから。
でも、今日は一目でいいから会いたかったんだ。
会わなくちゃダメになってしまいそうなのに・・・。
涙をこらえようとうつむいた顔を上げようとしたとき、目の前に立つタクヤに気がつく。
「タクヤ・・・。」
その優しい表情をみたら、暖かいものが私の瞳からこぼれ落ちてしまった。
「どうしたの、イブ?」
タクヤが遠慮がちに、そっと私の腕に触れる。
「大丈夫、何もないよ。」
涙をぬぐって微笑もうとする私の笑顔はきっとゆがんでみえるんだろう。
「イブ、何でも話してよ。俺、聞くことしかできないけど、でも、話せば楽になることもあるから。」
「ありがとう、タクヤ」
遠慮がちに背中を押すタクヤのぬくもりに慰められながら
私達は店へ戻った。

『会える』『会えない』の賭けの行方。
これが私の中で大きなきっかけになるような気がした。
そして、この日の終わり…。
完全に酔いが回った私の右側に並んで歩くタクヤのぬくもり。
左側にも同じ仲間の男性のぬくもりがあったけれど。
右側のタクヤのぬくもりだけが、私の悲しい心を癒してくれる気がした。

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