さよならの物語

2006年1月16日 連載
第28話

宮古島の白い砂、青い海、穏やかな時間と咲き乱れる花。
勇樹に手を引かれて向ったのは、それらの美しい景色が一望できる場所。
海風に拭かれながら広がる髪をおさえた。
「ここだよ、イブ」
静かに微笑む彼の顔がまっすぐみれない。
私は、勇樹の笑顔の向こうに、タクヤを思い浮かべていた。

タクヤは今頃どうしているのかな。
一人、飛行機の乗って、この隣にある沖縄本島へ向っているのだろうか。
それとも、空港から引き返して、帰っていったのか。
雲ひとつない空に、肩を落とすタクヤの後姿を描く。

「イブ?」
勇樹が私の顔を覗き込み、そして、そっと抱き寄せる。
「イブの今の心の中が複雑なことは分かっている。
 でも、もう悩まないで、何も考えないで俺に寄り添って欲しい。」
「勇樹・・・。」
勇樹の声を胸で聞きながら静かに目を閉じて、体を預ける。
この人のぬくもりが私を救ってくれた。
勇樹が、ここまでの私を支えてくれた。
勇樹の優しさを知ったから、私は笑顔で頑張ってこられたんだ。
この手が、私の涙をぬぐって、私を引っ張って、今この私の立っているところへ導いてきた。
今朝、一人で空港についたときの私は、まだ、行き先が分かっていなかった。
ううん、迷っていた。
心の中の様々な想いを振り切れず、どちらかとはもう二度と会わないんだという
決心が付けられずにいた。
宮古行きへ乗るのか、那覇行きへ乗るのか、最後の決断を勇樹に任せてしまった。
でも、それが答え?
これが、私の進むべき道?
今ここに、私と勇樹が向かい合っている、それが現実なのね。

「勇樹。」
そっと勇樹から離れて、その暖かな手を取る。
「いいところだね。この海と空があればいつでも笑っていられそう」
「イブ。いつか、ここに二人の別荘を作ろう。そして、二人で穏やかに時間をつなごう」
幾分傾いてきた太陽に照らされた二人の影が、ぴたりと寄り添っていた。

その後、宮古島のホテルのレストランでワインをあけた。
この何年かの間、勇樹と一緒に食事をしてきた。
叶わない夢だと思いながら、こんな日が続けばいいのにと願わずにはいられなかった。
勇樹の奥さんを恨んだりしたことは一度もなかったけれど、
いつも彼といられて羨ましいと、心から羨ましいと思っていた。
そんな手に入らないはずの幸せな時間が、今、私の目の前にある。
私の求めていたもの、求めていた人。
忘れようとしても忘れられなかったひと。
諦めようとしても諦められなかった人。

そして、その夜。
先に眠りについた勇樹の顔を眺めながら、私は長い長い手紙を書いた。

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