さよならの物語

2006年1月12日 連載
第27話

泣かない。
泣いてはいけない。
泣いてもどうにもならない・・・。
鼻の奥がジンとして熱くなるのを必死に抑える。
空港のロビーの天井を見上げる。
勇樹が待つ便は30分後。タクヤが待つ便は1時間後。
もう、時間はない。
そして、多分、私の中での答えは空港に来る前に出ている。
二つの手紙を綺麗にたたんで、再び鞄の中へ戻す。
ここで決めたことは、決して後悔しないようにしよう。
誰を選ぶとか、誰と別れるとかではなく、ただ私の心ままに進んでいこう。

そのとき、エスカレーターを上がってくる一人の男性の姿が見えた。
一緒に飛び立とうとしている彼の姿。
私は、一つ深呼吸をして立ち上がる。
そして、彼の視界に入るのを背筋を伸ばしてじっと待つ。
心なしか険しい顔をして歩いてきた彼が、私を見つけて、柔らかな笑顔になった。
大好きな笑顔。
その笑顔は、私が始めて彼を見た、新人研修のときの笑顔だった。
「勇樹、おはよう!」
「イブ・・・、会いたかった」
勇樹に強く抱きしめられ、手に持っていた2枚のチケットのうち、
タクヤから送られてきた那覇行きのチケットがイスの下へ落ちた。
そして、私はそれに気がつかないまま勇気の胸の中で目を閉じた。

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