さよならの物語

2005年12月22日 連載
第22話

それからの私とタクヤ。
仕事で顔をあわせても、出先ですれ違っても、それまでの二人が無かったかのように
よそよそしく、言葉も交わさず。
でも、タクヤが何かを言いたげなのだけは分かっていた。
そして、私も、このままでいいわけが無いことは分かっていた。

私は、勇樹とのことがタクヤに知れなければ、そのまま悩むことも、考えることも無く、
そのまま二つの道を走っていたのか?
やはり、私のこの二つの心を知ってもらった上で、もう一度タクヤと話がしたい。
話をしなければいけない気がする…。

この季節にしては暖かいその日、私は久しぶりにタクヤと向かい合った。
何から話していいか分からない。
そんな私より先に、タクヤが口を開いた。
「イブ、人の気持ちって、簡単に操れないよね。
自分自身の気持ちでさえも思うようにならない。
俺はそれをわかっているし、もっとそういう気持ちの深さを理解しようとした。
でも、やっぱり、どうして俺だけを見てくれなかったのか、という思いが消せない。
イブの俺との時間が全部ウソに思えてしまう。
このまま、もう、イブとは二人で過ごせない、そう考えてもみた。
でも、できないんだ。
俺には、イブが必要なんだよ。
俺より前に出会っていた人との、しかも、俺と付き合う前に既にそういう関係だった
その人との想いが残っていることは、仕方がないと思う。
人の気持ちは、そんな簡単には整理できない。
だから、もし、イブがこれからも俺と一緒にいたいと思ったうえで、
その人への気持ちをきちんと整理していこうとしてくれるのなら、
俺は、イブと一緒に頑張りたい。
俺も、その整理を手伝いたい。    」
まっすぐに私を見つめるタクヤの瞳。
久しぶりにタクヤの顔をまっすぐにみた。
そこまで言ってくれるタクヤの思いに私は答えられるのだろうか。
少しでも、不安があるのだとしたら、こんなにまっすぐで誠実なタクヤの優しさに
甘えてはいけない。
中途半端な答えを、タクヤは求めていないはず・・・。
私は、一つ深呼吸をして、タクヤを見つめ返す。
「たくや、ありがとう。そして、本当にごめんなさい。
タクヤの今の言葉、しっかりと考えたい。
そして、これからの私と、私の進む道を考えるために
少し時間をもらいたいの。だめですか?」
タクヤは少し微笑んで、そして、首を立てにふってくれた。

タクヤ・・・。

私は複雑な思いを飲み込んだ。
タクヤか勇樹か。
そんな単純な問題でないことも分かっている。
何も分からないまま、唯一つタクヤの笑顔を前に考えたことは、
タクヤをこのままにして、タクヤにこの思いをさせたまま、
もはや勇樹とは今までのように過ごすことはできない。
勇樹にも、このことを話さなくてはいけない。

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