さよならの物語

2005年12月14日 連載
第20話

勇樹と向かえる朝の寂しさをなんて表現したらいいんだろう。
彼の腕の中で満たされていながら感じるセツナさ。
私たちが永遠のものではないからだね。
決してこれ以上を望んではいけない私と勇樹との関係は、
だからこそ余計に美化されてしまう。
そんなことを考えながら勇樹の寝顔を見つめていた。
私の視線を感じたのか、勇樹が寝返りを打って、そして私へと手を伸ばした。
隣で目覚めた勇樹の瞳に吸い込まれる。
でも、そんな静かな時間は続かない。
それぞれの場所へ帰っていく時間が迫ってくる。
「また、来月の予定を決めような。」
「うん」
うなずきながら私たちは身支度をして、それぞれの車に乗り込み、
しばらくの間前と後で並んだまま走る。
そして、次のジャンクションで右と左へ別れていく・・・。
その手前のサービスエリアに2台は並んで入った。
沢山の人と、車の中で、私は一瞬だけ勇樹の胸に頭を預ける。
勇樹も、優しく私の頭をなでて、
「じゃあ、また。」
そういって、BMWのシートに座り込んだ。
勇樹の車を見送ってから私も車に乗る。
勇樹との時間は、ここで切り替えなくてはいけない。
自分の心に言い聞かせて、アクセルを踏み込んだ。

勇樹との余韻に浸るまもなく、電話がなる。
タクヤからの着信。
「イブ・・・。」
「どうしたの、タクヤ?」
「今、どこにいる?」
「今、移動中。高速道路だよ。仕事帰りなの」
うそをつく。
嘘の苦しさ、これからの不安。
私は、複数恋愛をしたい訳じゃない。
妻子ある人との付き合いを喜んでしている訳じゃない。
誰もうらぎりたくないし、傷つけたくない。
こんなことがいつまでも続くと思っていない。
今だけ。
必ずきちんとするから。
自分の気持ちと向き合って、答えを出すから。
タクヤへ向けて、心の中でつぶやく。
「イブと話がしたいんだ。どこかでお茶しない?」
「いいよ。」
なんとなく元気がないタクヤとの待ち合わせ場所へ向う。

勇樹から遠ざかり、タクヤへと近づいていく私の車。
勇樹とタクヤが交錯する頭と心。
何も考えられないままタクヤの待つところに到着した。
1週間ぶりのタクヤ。
気のせいか、とても無口で、寂しそうな表情をしている。
胸に、グッとくるものがある。
そんな私をタクヤがいきなり抱きしめた。
「イブ、おれ、苦しいよ」
タクヤの瞳を覗き込む。
「おれ、さっき、偶然みてしまったんだ。イブが誰かと一緒にいるところ…」
タクのまっすぐな瞳から目をそらせなくなった。
鼓動が早くなる。
「タク・・・。」
「答えてくれないか?話してくれないか?このまま何もなかったようにはできないんだ。
イブの話を聞かないと、おかしくなりそうなんだよ・・・」
苦悩を浮かべるタクヤは、私を拒絶しているようにも見える。
もう、ダメだね。
これ以上、タクヤを裏切れない。
「ゴメン。何もかも、正直に話すよ。ごめんね、タクヤ」
私は、あの再会の日、どうして勇樹の腕に飛び込んでしまったんだろう。
それは、タクヤへの想いを持ってとめられなかったの?
自分の心に問いかけながら、タクヤを見る。
全てを失う覚悟で、私は口を開いた。

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