さよならの物語

2005年12月3日 連載
第18話

「最近のイブ、なんだかとても優しくなったよね。いや、もともと優しかったんだけど。特にそう感じるんだ。」
夜の街。
食事をして、軽く飲んで、私の家へ帰る途中、タクヤが照れくさそうにつぶやいた。
優しいタクヤの表情が私の胸の中を締め付ける。
『ごめん・・・』
声にならない言葉を心の中でタクヤへ向ける。

最近の優しさ。
タクヤがそれを感じ取っているとしたら、それは決して純粋なものじゃない。
終わりにしたはずの勇樹と、また二人の時間を動かしてまったことの罪悪感からの優しさ。
懺悔の気持ち。
タクヤと今までと変わらない時間を重ねながら、タクヤだけのことを考えているフリをしながら
私の心にはタクヤと勇樹が住んでいる。
回りからはひどい裏切りだといわれるかもしれない。
でも、それとも違う。
私は、人としてタクヤも勇樹も尊敬して、好きで、大切にしたいんだ。
誰かと付き合ったら、他の人を大切に思うことはいけないことなの?
自分以外の他人を好きだと思うことはいけないこと?
ううん、そうは思いたくない。
誰かを好きになること、自分以外の誰かを大切にしたいという気持ちは
絶対に尊い気持ちのはずだと信じたい。
『でも、許されないよね。タクヤは許してくれないよね。』
無言で隣のタクヤを見つめる。
私のそんな心の声は届いたんだろうか。
ふと、人通りが途切れた街のかたすみでタクヤはそっとキスをした。
暖かいタクヤのぬくもり。
このぬくもりがいとおしいと思う。
心から大切にしたい、失いたくない。
タクヤ・・・・。

その時、胸元のポケットの携帯がメールの着信を知らせる。
勇樹と再会してから、タクヤといるときもバイブにしたままになった私の携帯電話。
そして、今のメールはきっと勇樹。
タクヤのぬくもりを感じながら、勇樹を思う。
このままじゃいられないことは分かっている。
いつか、私は大切なモノを失ってしまう日が来る。
でも、もう、自分で決められない以上、誰かに任せてしまいたい。
ゆだねてしまいたい。
そして、私はそれを受け入れるしかない。

タクヤの背中にそっと手を回しながら、複雑な思いも抱きしめた。

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