第13話
フライング状態で始まったタクヤとの時間。
そして、その影で同じように時を刻む勇樹との時間。
タクヤと勇樹の間で揺れ動く私の気持ちは流れの違う空間の中を行ったり来たりしていた。
「イブ、俺仕事の打合せで近くにいるんだけど、良かったら昼飯一緒に食べない?」
「今日、仕事が終わったら、気分転換に泳ぎに行こう」
「週末、予定がないなら、ふらっとドライブに行かないか?」
タクヤからの誘いが増えて、一緒に過ごす時間も積み重なっていく。
今まで、ただただ勇樹からの連絡を待って、期待はずれでがっかりして、
次に会う日の約束さえなくて、不安になって眠れなくて。
そんな風に過ごしていた私の一人の時間がタクヤで埋め尽くされる。
それと同時に、勇樹との会えない日々を指折り数えることがなくなった。
今までは見えない勇樹の時間をいらない想像をしては、自分で自分を追い込んでいた。
そんな勇樹とのマイナスの時間を、タクヤがすっぽりと包み込んでくれていた。
そんなある日、タクヤからのお誘い。
「今日、仕事を早めに切り上げて、夕日を見にいかないか?」
「夕日?」
「そう、ちょっと足を伸ばして、海まで行って、夕日を眺めよう」
デスクの前のホワイトボードを見る。
今日の予定は・・・、2時の打合せを済ませれば午後は私が抜けても大丈夫かな。
「うん。そうしよう。3時には仕事が終わりそうだから」
「じゃあ、その頃、イブの事務所まで迎えに行くよ。」
電話を切って、手帳を開く。
開いた手帳の間に一枚の写真。
勇樹と私が幸せそうに笑っている。
勇樹となかなか会えなくて、電話もできなくて、そんな時、いつもこの写真を見ていた。
写真の中の二人は、本当に穏かに笑っていたから。
でも、最近、タクヤが私の精神安定剤だから、この写真を見ることもなくなったな・・・。
もう、こんな写真を持ち歩いていちゃいけないね。
結局、「忙しくてごめんね」を理由に、勇樹とは3ヶ月も会っていない。
そして、そんなにも会わずにいられちゃうっていうことが寂しいながらも現実なんだ。
それだけ今の私は、タクヤに支えられているっていうこと。
タクヤの存在が大きいっていうこと。
タクヤ・・・、私はタクヤの優しさに答えたいよ、ううん、答えなくちゃいけない。
勇樹とどうなっているのか、連絡を取っているのか、そういうことの一切を聞かずにいてくれるけど、
その奥でタクヤも寂しい思いを抱いているはず。
そして、何が大切なのか、誰とこの先を進んでいくのが正しいのか私も分かっている。
もう、本当に、ずるい私は卒業しなくちゃ。
何もいわないタクヤに甘えてばかりじゃダメ。
手帳から抜き出した写真を机の上におく。
そして、勇樹に渡された日からずっとはずすことのなかったネックレスをはずす。
バッグの中にそっと二つの思い出を閉まいこんだ。
「すごいね、こんなに綺麗な夕日、初めて見たよ・・・。」
隣に座るタクヤにつぶやく。
「俺も・・・。」
まぶしそうに目を細めながら、タクヤもじっと夕日を見つめている。
私は、バッグの中から写真と、ネックレスを出した。
手の中に握り締め、その手を胸にしばらくあてたまま目を閉じる。
…勇樹、勇樹との思い出は心の中だけでいいよ。
形として残るものは、私達の関係にはふさわしくないし、ね。
「タクヤ、ちょっとここにいてくれる?」
私は、一人で立ち上がって波打ち際までゆっくりと歩く。
私の背中を優しく見守っていてくれるタクヤの暖かさを感じたまま砂の上を進む。
そして、その波の中にネックレスを投げ入れた。
砂にまぎれてすぐに見えなくなったネックレス。
まるで、私と勇樹の恋のようにあっけない。
そして、最後に二人の写真を波に流す。
思い出の二人を破り捨てることはできない。
でも、この波に運ばれて、この二人の笑顔がどこか遠いところで生き続けてくれれば、
私と勇樹の誰にもいえなかったこの恋も救われるね。
一粒落ちた涙が、砂の上におちて、そして波に消されていく。
「勇樹・・・。」
最後に口にしたその言葉は、誰にも聞かれることなく、波の音に消された。
そして、夕日の最後の輝きの中、私は、タクヤの隣へと戻って行った。
夕日に照らされたタクヤは、いつもよりもっともっと優しい顔で私を抱きしめてくれた。
帰りの車の中、勇樹に最後のメール。
「もう、勇樹には会えない。終わりにしよう」
送信ボタンを押す指が一瞬ためらわれる。
隣でハンドルを握るタクヤを見つめて、そして、今度こそ…。
【送信しました】のメッセージ。
これでいいの、これで、ようやくけじめがつけられる。
自分の心に言い聞かせるようにして、携帯電話をバッグに戻した。
その直後、バッグの中で、何度か着信を知らせるランプが点滅したけれど、
私はそれに気がつかないまま、タクヤとラジオから流れる曲に耳を傾けていた。
フライング状態で始まったタクヤとの時間。
そして、その影で同じように時を刻む勇樹との時間。
タクヤと勇樹の間で揺れ動く私の気持ちは流れの違う空間の中を行ったり来たりしていた。
「イブ、俺仕事の打合せで近くにいるんだけど、良かったら昼飯一緒に食べない?」
「今日、仕事が終わったら、気分転換に泳ぎに行こう」
「週末、予定がないなら、ふらっとドライブに行かないか?」
タクヤからの誘いが増えて、一緒に過ごす時間も積み重なっていく。
今まで、ただただ勇樹からの連絡を待って、期待はずれでがっかりして、
次に会う日の約束さえなくて、不安になって眠れなくて。
そんな風に過ごしていた私の一人の時間がタクヤで埋め尽くされる。
それと同時に、勇樹との会えない日々を指折り数えることがなくなった。
今までは見えない勇樹の時間をいらない想像をしては、自分で自分を追い込んでいた。
そんな勇樹とのマイナスの時間を、タクヤがすっぽりと包み込んでくれていた。
そんなある日、タクヤからのお誘い。
「今日、仕事を早めに切り上げて、夕日を見にいかないか?」
「夕日?」
「そう、ちょっと足を伸ばして、海まで行って、夕日を眺めよう」
デスクの前のホワイトボードを見る。
今日の予定は・・・、2時の打合せを済ませれば午後は私が抜けても大丈夫かな。
「うん。そうしよう。3時には仕事が終わりそうだから」
「じゃあ、その頃、イブの事務所まで迎えに行くよ。」
電話を切って、手帳を開く。
開いた手帳の間に一枚の写真。
勇樹と私が幸せそうに笑っている。
勇樹となかなか会えなくて、電話もできなくて、そんな時、いつもこの写真を見ていた。
写真の中の二人は、本当に穏かに笑っていたから。
でも、最近、タクヤが私の精神安定剤だから、この写真を見ることもなくなったな・・・。
もう、こんな写真を持ち歩いていちゃいけないね。
結局、「忙しくてごめんね」を理由に、勇樹とは3ヶ月も会っていない。
そして、そんなにも会わずにいられちゃうっていうことが寂しいながらも現実なんだ。
それだけ今の私は、タクヤに支えられているっていうこと。
タクヤの存在が大きいっていうこと。
タクヤ・・・、私はタクヤの優しさに答えたいよ、ううん、答えなくちゃいけない。
勇樹とどうなっているのか、連絡を取っているのか、そういうことの一切を聞かずにいてくれるけど、
その奥でタクヤも寂しい思いを抱いているはず。
そして、何が大切なのか、誰とこの先を進んでいくのが正しいのか私も分かっている。
もう、本当に、ずるい私は卒業しなくちゃ。
何もいわないタクヤに甘えてばかりじゃダメ。
手帳から抜き出した写真を机の上におく。
そして、勇樹に渡された日からずっとはずすことのなかったネックレスをはずす。
バッグの中にそっと二つの思い出を閉まいこんだ。
「すごいね、こんなに綺麗な夕日、初めて見たよ・・・。」
隣に座るタクヤにつぶやく。
「俺も・・・。」
まぶしそうに目を細めながら、タクヤもじっと夕日を見つめている。
私は、バッグの中から写真と、ネックレスを出した。
手の中に握り締め、その手を胸にしばらくあてたまま目を閉じる。
…勇樹、勇樹との思い出は心の中だけでいいよ。
形として残るものは、私達の関係にはふさわしくないし、ね。
「タクヤ、ちょっとここにいてくれる?」
私は、一人で立ち上がって波打ち際までゆっくりと歩く。
私の背中を優しく見守っていてくれるタクヤの暖かさを感じたまま砂の上を進む。
そして、その波の中にネックレスを投げ入れた。
砂にまぎれてすぐに見えなくなったネックレス。
まるで、私と勇樹の恋のようにあっけない。
そして、最後に二人の写真を波に流す。
思い出の二人を破り捨てることはできない。
でも、この波に運ばれて、この二人の笑顔がどこか遠いところで生き続けてくれれば、
私と勇樹の誰にもいえなかったこの恋も救われるね。
一粒落ちた涙が、砂の上におちて、そして波に消されていく。
「勇樹・・・。」
最後に口にしたその言葉は、誰にも聞かれることなく、波の音に消された。
そして、夕日の最後の輝きの中、私は、タクヤの隣へと戻って行った。
夕日に照らされたタクヤは、いつもよりもっともっと優しい顔で私を抱きしめてくれた。
帰りの車の中、勇樹に最後のメール。
「もう、勇樹には会えない。終わりにしよう」
送信ボタンを押す指が一瞬ためらわれる。
隣でハンドルを握るタクヤを見つめて、そして、今度こそ…。
【送信しました】のメッセージ。
これでいいの、これで、ようやくけじめがつけられる。
自分の心に言い聞かせるようにして、携帯電話をバッグに戻した。
その直後、バッグの中で、何度か着信を知らせるランプが点滅したけれど、
私はそれに気がつかないまま、タクヤとラジオから流れる曲に耳を傾けていた。
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