第12話
照明を落とした店内に静かな音楽が流れている。
カウンター席に並んで座った私とタクヤ。
いつになく近い距離のせいで、必要以上に相手を意識してしまう。
そして私は、未だに言葉を捜していた。
何から話せばいいのか、何を話せばいいのか。
口から出てくる言葉は仕事の話や、今日の出来事、そんなあたりさわりのないことばかり。
煮え切らない私に痺れを切らしたのは、タクヤのほうだった。
「何か話したいことがあるんでしょ、イブ?」
タクヤを見ないまま、コクリとうなずいて、深呼吸。
「じゃあ、聞いてくれる?」
「もちろんだよ。」
赤い色のカクテルを一口飲んで、私は静かに口を開いた。
「私が妻子ある人と付き合っているって言うのを前に話たよね。
今も、その人とはお付き合いが続いているの。
でも、最近、このままじゃいけないって思い始めて。
だけど、だからって、何をどうしたらいいのかも分からなくて。
一方では、他に気になる人もできたんだけど、
でも、それだけをもってその妻子ある彼とさよならができるほど
簡単じゃなくて。
その彼ときちんと終わりを迎えられればいいのに、それができない自分が悲しい。
でも、新しく始まろうとしている私の気持ちも大切にしたい。」
隣のタクヤと腕が触れ合う。
ドキッとして思わずタクヤを見た瞬間、真剣なまなざしの瞳とぶつかる。
「けれど、このままの状況で走り出したら、自分が許せなくなる。
自分が苦しくなって、どちらからも逃げ出してしまう。
そして、相手を傷つけてしまう。
今の私は、まだ、新しい気持ちには進まないほうがいいんだよね?
きちんと、不倫の彼を過去にしてから、新しい気持ちに向き合わなくちゃいけないよね」
そこまでいい終えて、タクヤの横顔を見つめる。
何も言わないタクヤは、目の前のグラスだけをじっと見ている。
「私、ずるいよね。でも、本当に 自分では動けなくて、どうしようもなくて。
その答えを、人に求めるなんてずるいけど、でも、タクヤに決めて欲しくて。
タクヤの意見が聞きたくて。」
微妙な沈黙が耐えられなくて、カクテルグラスを一気に飲み干す。
カウンターの向こうのバーテンダーがそれに気がついて視線を投げてくる。
同じものを注文して、私はタクヤの手をながめた。
「もう、ここまで言えば、タクヤにはわかるよね、私の気持ち。」
シェイカーの音が心地よいリズムで耳に届く。
目の前に置かれた空のグラスに美しい液体が注がれた。
「俺、一言いっていいかな?」
「うん。」
怖くてタクヤを見ることができない私。
「イブ。イブは俺といれば彼のことを忘れられるの?終わりにできるの?」
「・・・。」
「俺はイブが好きだよ。でも、ずっと2番手でもいいと思えるほど俺はできた人間じゃない。
でも、今お前の1番じゃないなら付き合いたくない、といえるほど強くもない。
俺も、ずるいんだよ・・・。」
私は首を振って、うつむいた。
「タクヤはずるくない。タクヤの言うとおりだよ。自分の気持ちなのに、自分でどうすることもできない私がいけない。」
再び訪れる沈黙。
私にはもう、なんの言葉も見つからない。
そして、タクヤは何かを考えているのか目を閉じている。
「なあ、イブ。必ず彼とのことは終わりにするって約束してくれないか?それを約束してくれるのなら、俺は、イブとはじめられる。」
タクヤはグラスの中の氷を静かに鳴らす。
「ううん、今すぐ、イブとはじめたいんだ。」
「タクヤ・・・。」
「俺が、その彼とのことを忘れさせてあげるから。」
「忘れさせてくれる?でも、私はきっとタクヤを傷つけてしまうことがあるよ。
今すぐには、心の整理ができないから。だから、タクヤを傷つけるよ。」
「いい。それは俺が最初から承知の上で、イブと付き合おうとしている。
大丈夫、きっと、大丈夫だから。」
カウンターの下でタクヤが私の手を強く握った。
暖かいタクヤのぬくもり。
私の求めているものはこれなんだろうか。
今、このタクヤの優しさに甘えてしまっていいのだろうか。
「タクヤ、ごめんね。そして、ありがとう。」
このぬくもりだけを信じて歩いていけるように、このぬくもりを裏切らないで歩いていけるように、
私も頑張ろう。
タクヤの力と、優しさを借りて、勇樹との恋に終止符を打たなくては。
タクヤの手をぎゅっと握り返して、私は心に誓った。
照明を落とした店内に静かな音楽が流れている。
カウンター席に並んで座った私とタクヤ。
いつになく近い距離のせいで、必要以上に相手を意識してしまう。
そして私は、未だに言葉を捜していた。
何から話せばいいのか、何を話せばいいのか。
口から出てくる言葉は仕事の話や、今日の出来事、そんなあたりさわりのないことばかり。
煮え切らない私に痺れを切らしたのは、タクヤのほうだった。
「何か話したいことがあるんでしょ、イブ?」
タクヤを見ないまま、コクリとうなずいて、深呼吸。
「じゃあ、聞いてくれる?」
「もちろんだよ。」
赤い色のカクテルを一口飲んで、私は静かに口を開いた。
「私が妻子ある人と付き合っているって言うのを前に話たよね。
今も、その人とはお付き合いが続いているの。
でも、最近、このままじゃいけないって思い始めて。
だけど、だからって、何をどうしたらいいのかも分からなくて。
一方では、他に気になる人もできたんだけど、
でも、それだけをもってその妻子ある彼とさよならができるほど
簡単じゃなくて。
その彼ときちんと終わりを迎えられればいいのに、それができない自分が悲しい。
でも、新しく始まろうとしている私の気持ちも大切にしたい。」
隣のタクヤと腕が触れ合う。
ドキッとして思わずタクヤを見た瞬間、真剣なまなざしの瞳とぶつかる。
「けれど、このままの状況で走り出したら、自分が許せなくなる。
自分が苦しくなって、どちらからも逃げ出してしまう。
そして、相手を傷つけてしまう。
今の私は、まだ、新しい気持ちには進まないほうがいいんだよね?
きちんと、不倫の彼を過去にしてから、新しい気持ちに向き合わなくちゃいけないよね」
そこまでいい終えて、タクヤの横顔を見つめる。
何も言わないタクヤは、目の前のグラスだけをじっと見ている。
「私、ずるいよね。でも、本当に 自分では動けなくて、どうしようもなくて。
その答えを、人に求めるなんてずるいけど、でも、タクヤに決めて欲しくて。
タクヤの意見が聞きたくて。」
微妙な沈黙が耐えられなくて、カクテルグラスを一気に飲み干す。
カウンターの向こうのバーテンダーがそれに気がついて視線を投げてくる。
同じものを注文して、私はタクヤの手をながめた。
「もう、ここまで言えば、タクヤにはわかるよね、私の気持ち。」
シェイカーの音が心地よいリズムで耳に届く。
目の前に置かれた空のグラスに美しい液体が注がれた。
「俺、一言いっていいかな?」
「うん。」
怖くてタクヤを見ることができない私。
「イブ。イブは俺といれば彼のことを忘れられるの?終わりにできるの?」
「・・・。」
「俺はイブが好きだよ。でも、ずっと2番手でもいいと思えるほど俺はできた人間じゃない。
でも、今お前の1番じゃないなら付き合いたくない、といえるほど強くもない。
俺も、ずるいんだよ・・・。」
私は首を振って、うつむいた。
「タクヤはずるくない。タクヤの言うとおりだよ。自分の気持ちなのに、自分でどうすることもできない私がいけない。」
再び訪れる沈黙。
私にはもう、なんの言葉も見つからない。
そして、タクヤは何かを考えているのか目を閉じている。
「なあ、イブ。必ず彼とのことは終わりにするって約束してくれないか?それを約束してくれるのなら、俺は、イブとはじめられる。」
タクヤはグラスの中の氷を静かに鳴らす。
「ううん、今すぐ、イブとはじめたいんだ。」
「タクヤ・・・。」
「俺が、その彼とのことを忘れさせてあげるから。」
「忘れさせてくれる?でも、私はきっとタクヤを傷つけてしまうことがあるよ。
今すぐには、心の整理ができないから。だから、タクヤを傷つけるよ。」
「いい。それは俺が最初から承知の上で、イブと付き合おうとしている。
大丈夫、きっと、大丈夫だから。」
カウンターの下でタクヤが私の手を強く握った。
暖かいタクヤのぬくもり。
私の求めているものはこれなんだろうか。
今、このタクヤの優しさに甘えてしまっていいのだろうか。
「タクヤ、ごめんね。そして、ありがとう。」
このぬくもりだけを信じて歩いていけるように、このぬくもりを裏切らないで歩いていけるように、
私も頑張ろう。
タクヤの力と、優しさを借りて、勇樹との恋に終止符を打たなくては。
タクヤの手をぎゅっと握り返して、私は心に誓った。
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