さよならの物語

2005年10月17日 連載
第1話

あなたに伝えたい気持ちがある。
あなたと付き合い始めて今までずっと胸の中にしまっておいた本当の私。
今、あなたが、私とのさよならを前にして、
私のあなたへの気持ちを簡単なものだったなんていう風に誤解しているのであれば
誰にも言えずに書き綴ったこの思いと、あなたを思った私の毎日を知って欲しい。
さよならを選んだ私の、苦しかった思いを知ってください。
そして、いつかまた二人でゆっくり話ができる日が来るとしたら、
私はあなたを前にきちんと伝えようと思う。
本当に、本当にあなたが好きでした。

その日、私は1年ぶりの再会となる友人たちと会うことになっていた。
某難関試験に合格した直後の合格者新人研修から約一年の年月が過ぎていた。
難関試験を突破したという連帯感と、合格後の開放感の中で共に過ごした3週間の集団生活で、出身も、歩んできた人生も違う何人かの仲間ができた。
そんな研修が終わり、新潟、長野、埼玉、千葉、神奈川に離れながらも、メールや電話で仲間として繋がっていたから、1年も会わないまま時間が過ぎてしまっていることのほうがちょっと不自然だった。
待ち合わせの横浜駅西口へ急ぐ。
腕時計を見ると、5分ほど約束の時間を過ぎてしまっている。
綺麗になったね、って少しでも思ってもらいたくて、白のロングコートのボタンを合わせ、髪を手でなでおろしながら小走りに階段を駆け下りた。
少し左手に待ち合わせの西口交番の赤いランプが目に付いて、懐かしい顔ぶれが目に入る。
その中の一人の男性に少しときめく。
背の高い彼に似合う、グレーのロングコート、やさしい笑顔、メガネ、そして…。
「おー、イブ、久しぶり〜!」
私に気がついた勇樹が満面の笑みを浮かべながら大きく手を振った。
「こんばんは。勇樹、お元気でしたか?みんなも元気そうだね。」
思わず笑みがこぼれおちる。
山さん、斉藤君、皆としばらく談笑しながら他のメンバーを待つ。
「大森、遅いよなあ。電話してみるか」
ポケットから携帯電話を取り出してダイアルする勇樹を、その横で見つめる私。
このときの私には、まだ想像もできなかった。
そんなやり取りで始まった久しぶりの仲間という輪の中から、私と彼がひょっこり抜け出して、二人の時間が始まっていくことになるなんて。
食べて、飲んで、おしゃべりして、久しぶりの仲間との時間を満喫した私たちは、「仕事頑張ろうね」「また、近々会おうね」ってそれぞれの場所へ帰っていく。
埼玉、千葉、地元横浜、そして私も・・・。
それぞれの明日のために、それぞれの戻るべきところへ。

ほろ酔いでホテルへ戻った私の携帯電話にメールが入る。
・・・だれ?
『今日はありがとう。1年ぶりに会えて嬉しかった。今度は二人で会ってね。』
『こちらこそ楽しかったです。勇樹、相変わらず素敵だし。』
『相変わらず素敵なのはあなたでしょ。交番の前で見たときはちょっとドキッとしてしまいましたよ。』
そんなたわいもない駆け引きのようなやり取り。
シャワーを浴びて、バスルームから出てきたとき、窓辺に置かれた携帯電話からメールの着信を知らせる音が鳴った。
『今、電車に揺られながら考えていたんですが、来月にでも会えない?今日会っちゃったらやっぱり会いたくなってしまった。俺が君の街まで会いに行きますから。私から言いましたよ。』
勇樹・・・。
このメールがすべての始まりだったのだろうか。
いいのか、悪いのか、なんの判断も出来ないままに流されていくことになるなんて。
でも、そもそも誰かを思う気持ちというのは、頭で計算できるものじゃないし、人と人との始まりも、終わりも、なるようにしかならないもの。
そんなことを考えながら、その夜はいつしか眠りについていた。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

この日記について

日記内を検索